「おまじないベーカリー」第5章:ミアの願い

「おまじないベーカリー」第5章:ミアの願い

ルイが「おまじないベーカリー」に通い始めてから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。

「おはようございます!」

「……おはよう」

いつもの朝、いつもの挨拶。
けれど、少しずつ変わってきたことがある。

ルイの表情が、前よりも柔らかくなったこと。
そして、ミア自身も、彼が来るのを楽しみにするようになったこと。

「今日は何にしますか?」

「……そうだな」

ルイは少し考えて、パンの棚を見つめる。
そして、クロワッサンに加えて、ふんわりとしたメロンパンを指さした。

「今日はこれも」

ミアは驚いたように目を丸くする。
「メロンパン、初めてですよね?」

「まあな」

ルイはどこか気恥ずかしそうに視線を逸らしながら、ぽつりと言った。

「……おまじない、かけてくれるか?」

ミアはふっと笑って、そっとパンを袋に詰める。
「もちろんです。今日はどんな願いごとですか?」

ルイは少し迷うようにして、それからゆっくりと言った。

「……ミアが、ちゃんと自分の願いも叶えられるように」

「……え?」

ミアは思わず手を止めた。

「……ミアはいつも、人のことばっかり願ってるだろ?」

ルイの低くて優しい声が、心にじんわりと響く。

「自分のことも、ちゃんと願えよ」

ミアの胸が、ふわっと温かくなった。

「……わかりました」

そっと袋を手渡すと、ルイは少し満足げに頷いた。

「じゃあ、それで」

ミアは彼の背中を見送りながら、ひとつ深呼吸をした。

そして、小さくつぶやく。

「私の願い……かぁ」

今まで考えたこともなかった。
でも、ルイに言われたことで、ふと気づいてしまった。

私の願いって……なんだろう?

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