小説『水晶玉の向こうに』 第6話

小説『水晶玉の向こうに』 第6話

奏太と別れたあと、叶は部室に戻り、一人静かに水晶玉を見つめていた。
「私の気持ち……ちゃんと決めないといけない。」

奏太の真剣な言葉が胸に響く一方で、麻衣の笑顔が頭をよぎる。彼女は友達としても大切な存在であり、その気持ちを踏みにじりたくはない。でも――

「……私はどうしたいんだろう?」

叶は水晶玉を撫でながら深呼吸した。占いを始めた頃は、人の悩みを解決することが楽しかった。でも今、自分自身がこんなに悩む日が来るとは思っていなかった。

次の日、放課後の空気は少し重たかった。
麻衣が叶の元を訪れたのだ。

「叶さん、また相談したいことがあって……。」

麻衣の様子は昨日よりもどこか落ち着かない。叶は彼女を部室に招き、机を挟んで向かい合った。
「どうしたの?」

麻衣は手を握りしめ、少し戸惑いながら言った。
「三浦くんに、私の気持ちをちゃんと伝えようと思うの。でも……彼がどう答えるのか怖くて。」

叶の胸がざわつく。昨日、奏太は自分に「好きだ」とはっきり言った。麻衣が告白を決意した今、それをどう受け止めればいいのか分からなかった。

「麻衣さん……その気持ちはすごく大事だと思うよ。でも、答えはきっと、麻衣さん自身が受け止めるしかないんじゃないかな。」

麻衣は少し驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりとうなずいた。
「そうだよね。占いで未来を知るだけじゃ、何も進まないんだよね。」

叶は微笑みながらも、内心は複雑な思いでいっぱいだった。
「麻衣さんが後悔しないように、ちゃんと気持ちを伝えてみて。」

麻衣は勇気を振り絞るように深呼吸し、にっこり笑った。
「ありがとう、叶さん。頑張ってみる!」

その背中を見送りながら、叶は机に突っ伏した。
「これでいいのかな……。」

その日の帰り道。
叶が校舎を出ると、校門の前で奏太が待っていた。

「奏太くん?」

「……麻衣から話があるって言われてさ。ちょっと戸惑ってるんだけど……叶にだけは話しておきたかった。」

Comments