小説『水晶玉の向こうに』 第6話 2025/02/01 11:54 Share on Facebook Copy URL Report 小説『水晶玉の向こうに』 第6話奏太と別れたあと、叶は部室に戻り、一人静かに水晶玉を見つめていた。「私の気持ち……ちゃんと決めないといけない。」奏太の真剣な言葉が胸に響く一方で、麻衣の笑顔が頭をよぎる。彼女は友達としても大切な存在であり、その気持ちを踏みにじりたくはない。でも――「……私はどうしたいんだろう?」叶は水晶玉を撫でながら深呼吸した。占いを始めた頃は、人の悩みを解決することが楽しかった。でも今、自分自身がこんなに悩む日が来るとは思っていなかった。次の日、放課後の空気は少し重たかった。麻衣が叶の元を訪れたのだ。「叶さん、また相談したいことがあって……。」麻衣の様子は昨日よりもどこか落ち着かない。叶は彼女を部室に招き、机を挟んで向かい合った。「どうしたの?」麻衣は手を握りしめ、少し戸惑いながら言った。「三浦くんに、私の気持ちをちゃんと伝えようと思うの。でも……彼がどう答えるのか怖くて。」叶の胸がざわつく。昨日、奏太は自分に「好きだ」とはっきり言った。麻衣が告白を決意した今、それをどう受け止めればいいのか分からなかった。「麻衣さん……その気持ちはすごく大事だと思うよ。でも、答えはきっと、麻衣さん自身が受け止めるしかないんじゃないかな。」麻衣は少し驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりとうなずいた。「そうだよね。占いで未来を知るだけじゃ、何も進まないんだよね。」叶は微笑みながらも、内心は複雑な思いでいっぱいだった。「麻衣さんが後悔しないように、ちゃんと気持ちを伝えてみて。」麻衣は勇気を振り絞るように深呼吸し、にっこり笑った。「ありがとう、叶さん。頑張ってみる!」その背中を見送りながら、叶は机に突っ伏した。「これでいいのかな……。」その日の帰り道。叶が校舎を出ると、校門の前で奏太が待っていた。「奏太くん?」「……麻衣から話があるって言われてさ。ちょっと戸惑ってるんだけど……叶にだけは話しておきたかった。」