《星空カフェ》第3.5章 2025/01/19 16:04 Facebookでシェア URLをコピー 報告 《星空カフェ》第3.5章「紬さん。」「はい?」「星が見えなくても、星はちゃんとそこにあるんですよ。」紬は驚いたように陽翔を見た。「昔、誰かが言ってたんです。曇り空の向こうには、変わらず星が輝いてるって。」その言葉に、紬の目が少し揺れる。「……そうですね。」紬は、ふっと微笑んだ。そして、皆に向かって声をかけた。「みなさん、今日は星が見えなくて残念かもしれません。でも…星は、雲の向こうでちゃんと輝いています。」紬の声に、人々はゆっくりと空を見上げた。雲に覆われた夜空。それでも、どこか温かい気持ちが広がっていく。「だから、お願いがあります。みんなで目を閉じて、一緒に星を思い浮かべませんか?」子どもたちも、大人たちも、陽翔も目を閉じた。静かな広場に、ランタンの灯りだけが揺れている。――見えなくても、そこにある。紬の胸の中にも、兄・湊の言葉がよみがえっていた。イベントが終わった後、陽翔と紬は片付けをしていた。「今日は…ありがとう。」紬がぽつりと呟いた。「僕は何もしてませんよ。紬さんが言葉を届けたんです。」「ううん。陽翔さんがいたから、前を向けた気がします。」その言葉に、陽翔は照れたように笑った。けれど、心の奥がほんのりと温かくなった。その時、ふと空を見上げると、雲の切れ間から一筋の星が顔を出していた。「……見えましたね。」「え?」紬も空を見上げた。たったひとつの星が、夜空に静かに瞬いていた。「星は、ちゃんとそこにある。」二人は静かに夜空を見つめた。曇り空の向こうにある光が、二人の心をそっと照らしていた。