《星空カフェ》第2章:星に願いを

《星空カフェ》第2章:星に願いを

「あの…こんにちは。」

陽翔はまた「ほしぞらカフェ」の扉をくぐった。
店内は変わらず静かで、外の寒さとは対照的に、ほんのり温かい空気が流れている。

「また来てくれたんですね。」

カウンターの奥で微笑むのは、昨日と同じ女性。
名前も知らない彼女の、落ち着いた声が心地よかった。
「この間のミルクティーが美味しかったので。」
陽翔は照れ隠しのように言って、空いている席に腰を下ろした。

「それはよかったです。今日はどうしますか?」
「じゃあ…今日も、あれをお願いします。」
「かしこまりました。」

淡々としたやり取りの中にも、どこか柔らかな空気が流れていた。
目の前で丁寧に紅茶を淹れる姿をぼんやり眺めていると、ふとカウンターの端に置かれたノートが目に入った。

「これ…?」

陽翔が指差すと、女性は一瞬驚いた顔をしてから微笑んだ。

「それは**“星に願いを”ノート**です。」
「星に願いを…?」
「お客さんが、叶えたい願いや、心に秘めた想いを書き留めるノートなんです。ここに書くと、星が願いを運んでくれるかもしれない…って。」
「へぇ、ロマンチックですね。」

陽翔はそう言いながらも、どこか懐かしいような気持ちになった。
幼い頃、星に願いごとをしたことがあっただろうか。大人になると、そんなことも忘れてしまう。

「書いてみますか?」

そう聞かれ、陽翔は少し迷ったが、そっとノートを開いた。そこには、様々な人の願いが綴られていた。

「好きな人と両想いになれますように」
「お母さんの病気が治りますように」
「自分に自信が持てますように」

どれも、素直な気持ちが込められた言葉だった。
陽翔はペンを取ると、迷いながらも一言書き込んだ。

「もう少し、素直になれますように」
書いた瞬間、少し肩の力が抜けた気がした。

「素敵な願いですね。」
女性はカップを差し出しながら、柔らかく微笑んだ。

「あ、そういえば…あなたの名前、まだ聞いてませんでしたね。」
「あ、そうでしたね。春野 紬です。このカフェの店主です。」
「瀬川陽翔です。よろしくお願いします。」
名前を交わしただけなのに、ふと心が温かくなる。

それから陽翔は、時間を見つけては「ほしぞらカフェ」を訪れるようになった。紬と他愛ない会話を交わし、静かな時間を過ごす。 

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